「不揃いなサンカク」~「この世界の主人公」/有償ストーリーのネタバレあり
夕方の五時になれば車窓の外は暗くなる季節だった。
(ぴぃちゃんの隣に座りたかったな)
プロデューサーが運転する社用車には、助手席に鋭心、後部座席に百々人と秀が乗っていた。CDのリリースイベントで、事務所から高速道路を経由して一時間弱のショッピングモールへミニライブに行った帰りだった。
ヘッドレストで見えないのに、プロデューサーの後頭部につい視線を向けてしまう。帰路についてすぐはパフォーマンスの振り返りをして、プロデューサーに感想を聞いて会話が弾んでいたが、早朝に集合した地方仕事ということもあり、百々人以外のメンバーの口数はだんだん減っていった。今、鋭心は腕を組んで目を閉じていて、秀はイヤホンをしてスマホを触っている。百々人は頬杖をついて外を眺めた。地平線の近くはまだ琥珀色をしていたが、街灯の方が眩しかった。景色にすぐ飽きてスマホを取り出すと、左肩にぽす、と重さを感じた。
目を閉じた秀が百々人に寄りかかっていた。唇が薄く開いていて、規則正しい呼吸で胸が上下している。年相応の幼さの残る寝顔に、百々人は少したじろいだ。
(どうしよう……)
起こすわけにはいかなかったが、目が覚めたら秀もこの状況はきっと気まずいはずだ。そっと体勢を変えてみるが、百々人に合わせて秀の頭が追いかけてくる。秀が起きる気配はなく、結局そのままにした。
再び見上げると、外はすっかり暗く、鏡のようになった窓ガラスに二人が映っている。首を傾けて百々人の肩に頭を乗せるあどけない秀と、少し困って硬い表情をした百々人。
『先輩時々怖い顔してるときありますよ』
秀に言われた言葉を思い出した百々人の胸がちくりと痛んだ。
秀はまるで、鏡のようだ。いつも完璧な姿を見せる彼と、そこに映った同じ肩書きをしている虚像の自分。見たくなくていつも言葉や表情で遠ざけてしまう。
でも、もうそこまで夜の闇が迫っている。そう考えると左肩の熱に安心するような気がした。
トンネルに差しかかったので、唐突にオレンジの光がこうこうと車内に差し込むようになった。百々人は秀に倣って目を伏せ、厭わしい光を心の中で罵った。